太田利之氏が著した本書の中から、僕にとってなじみのある曲を紹介しているが、今回は、終章「6 ドラッグ」。3曲が取り上げられているが、ここでは、ピンク・フロイドの『マネー』を取り上げたい。でも、ドラッグをテーマにした曲なら、クラプトンの『コカイン』やビートルズの『LSDs』など、色々とあるはずだ、と思う人は多いはず。実は、複雑な権利の関係で「今回は、ビートルズ、ストーンズ、ディラン、クラプトンなどの楽曲を掲載することができなかった」(P4)とある。それでもこの本は十分楽しめたけどな。
したがって、この曲の選択は次善の策だったのかも知れない。3曲という曲数も、他の章に比べて少ない。この章にふさわしい曲が中々見つからなかったのかもな。それでも、『マネー』はドラッグとの親和性は高いと思う。
この曲は1973年発表の『狂気』に収録され、シングルカットもされた。歌詞も意味深な比喩に富んでいる。2コーラス目の歌詞中にある「stack」という単語。筆者は「札束」としているが「(ひとかたまりの)干し草」(マリファナを想起)の意味もあると言う。
同じく「hit」の語も「ヘロイン」の隠語とか。また、脱退した元リーダーのシド・バレットのことを思い起こさせるようなところもある。
僕がピンク・フロイドを知ったのは、高校の時、友人に熱心に勧められたのがきっかけだ。ただ、当時興味を持って聴いたのは『原子心母』や『おせっかい』の収録曲「エコーズ」といった長尺曲だった。でも、これらを好んで聴いた時代は長く続かず、そのうち聴かなくなってしまった。シド・バレットがリーダーを務めていたころの彼らのデビューアルバム『夜明けの口笛吹き』は聴いた記憶が無いが、今になって聴いてみたいと思うようになった。
バレット脱退後のフロイドの代表作は、何と言ってもこの曲が収録されている『狂気』だろう。僕も彼らの作品ではこれが最も好きだ。プリズムによる光の屈折をイメージした印象的なジャケットは、一度目にすると忘れない。
アルバムの原題は「The Dark Side of the Moon」。日本語のイメージとしては「彼岸」「あっち側」といった感じだろうか。アルバムを聴き進んでいくうちに、「あっち側」と思っていた所が、実は「こちら側」であり、両方の世界には本当は境界など無いのではないか、という感覚が込み上げてきたのを覚えている。
しかし、アルバム全体として彼らを聴くのは、僕の場合、『狂気』がほとんど最後となった。この後の作品『炎~あなたがここにいてほしい』『アニマルズ』『ザ・ウォール』などは、一部の曲を聴いたのみで、アルバム全体として聴いたことはなかったな。もっと率直に言うと、キング・クリムゾンの美の世界に没入し、フロイドの音楽が意識の中に入ってくることはなかった。
今回、このブログにまとめるにあたり、少し調べてみたが、シド・バレットがリーダーシップをとった1stアルバムを聴いてみたくなった。本当に聴いたことが無いんだよ。
また、調べて見て面白いこともわかった。小泉純一郎元首相がその昔、英国留学していた時、シド・バレットの母親が経営する貸家に下宿していたことがあったようだ。二人が顔を合わせたことくらいはあったかも知れないな。
太田利之氏の著作を元ネタにして、書きたいことを書いてきたが、太田氏の著作の選曲が良かったので、続けて書くことができたと思う。感謝します!
それから、太田氏の著者名表記が一部誤っておりました。お詫びして訂正させていただきます(現在はすべて直っています)。