Rocco's log ~プログレ好きの警備員 trader with 社労士~

社労士試験、投機関連(大阪金先物が中心)その他諸々。このブログのトレードに関する箇所は、僕の勝手な相場観を書いています。価格も僕の予測に過ぎません。内容の正確さに最善は尽くしていますが、一切の責任を負うものではありません。売買は必ずご自分の判断で行って下さい。また、記事中で氏名の敬称は原則として省略しています。ご了承ください。

『行動経済学の使い方』(大竹文雄 著 岩波新書)読了。

著者の大竹先生は、以前、又吉の出ていた「オイコノミア」に度々出演されていたので僕も知っていた。ちょっととぼけた味のある学者だ。

我々の日常生活は意思決定の連続だ。この意思決定を、人間の行動特性を踏まえた上で、自由な選択を確保しつつ、より良い方向に導くための知恵と工夫が、本書に出てくる「ナッジ」という考え方だ。ここでいう知恵と工夫の中に、金銭的インセンティブは入らない(P45)。そもそも「ナッジ」は「軽く肘でつつく」という意味の英語である(P44)。多大なコストや大げさな仕組みが絡むものは、ナッジとは呼べない。

本書には面白い例がいくつも載っているが、その一つに「臓器提供の意思表示」というのがある。保険証によく、臓器の提供についての意思を記入する欄があるが、臓器提供の同意率が我が国はかなり低い。具体的な数字を挙げると、欧州諸国、例えばフランスやオーストリアは、臓器提供への同意率は99.9%、スウェーデンは85.9%といった具合であるのに対し、我が国は12.7%(但し、欧州でもドイツ12%など我が国より低い国もある)。本書によると、これはナッジの設計方法の一つ、「デフォルト設定」の相違にある。我が国では「提供しない」がデフォルトで、提供したい場合にはその旨の意思を表示しなければならない。こういう国々の同意率は大体10%前後だ。これに対し、「提供する」がデフォルトになっているフランスのような国々では、ほぼ100%である。

こういう変更は直ぐにでもできると思うのだが、それをやらないのは何か理由があるのかな。

もう一つ、「大腸がん検診受診率向上ナッジ」(P143)。

グループを二つに分け、一方のグループには「今年度、大腸がん検診を受診すれば、来年度も検査キットを送る」と記載、他の一方には「今年度、受診されないと、来年度は検査キットをお送りできません」と記載した。言っていることは両方とも同じことだ。ところが結果は、前者(利得メッセージ)を受け取った方の受診率は22.7%、後者(損失メッセージ)の方は29.9%だった。この差はどこから生じるのか。本書の分析はこうだ。前者は「検査キットが送られてこないことを暗黙の参照点にしている」。つまり、通常は検査キットは送らないが、今年受診すれば、来年度は送る、という意味だろう。これに対し後者は「検査キットが送られてくることを参照点にしている」。つまり、通常は送るが、今年受診しなければ、来年度は送らない、という意味。後者(損失メッセージ)の方が受診率が高く出たのは、検査キットが送られてくる、という水準を維持したい、という気持ちが働いたため、と分析する。

このように、行動経済学的考え方は、われわれが日常生活を営んだり、仕事をする上で、様々なヒントを与えてくれる。計算能力が高く、どんなときでも合理的意思決定ができる「合理的経済人モデル」ともいえるような人は、現実にはほとんどいない。これに対し、多くの人間は「わかっていてもできない」というパターンが多いのではないだろうか。このような人間の特性を踏まえて、世の中の様々な制度設計をして行こう、と考えるのが行動経済学である、と僕は理解した。

オイコノミアをまた観たくなったよ。