副題に「グラフで読み解く相場の過去、現在、未来」とあるように、1500年代のイタリア・ジェノバの金利推移から現在まで、金利、為替、株、商品など、様々なデータをグラフ化したり、チャート化したりして、章ごとに設定されたテーマに則り紹介している。本書自体は160ページ程度で、分厚いわけではないが、読みごたえと言う点ではたっぷり。読後に満腹感を味わえることは間違いない。
人間、満腹になればたいていは眠くなる。しかし、本書の内容はそれを許さない。その意味では読者を選ぶ本、とは言えるだろう。多数のチャートやグラフと本文を照合しながら読む必要があるので時間はかかったが、個人的には得るところが多い本だった。
本を読むときは、まず、著者はどんな人か、肩書や経歴紹介からあたることも多い。現在の著者の肩書は「相場研究家」。金融機関のストラテジストやチーフ・アナリストといったサラリーマンではなく、現在は一匹狼である。サラリーマンの相場評は、経済番組やニュースなどでよく耳にするが、結論に至るまでに幾つもの前提条件が付いたり、結論として何を言いたいのか不明瞭なこともある。
その点、著者は明確だ。本文中の例をいくつか挙げる。
1 長期金利が520週MAを上回ったり、原油価格が200日MAを下回ったりすると、株価は急落する(P17、117~122)。
2 家計消費全体に占める無職世帯の割合は3割もある(P74~5)。高齢化によりこの割合が増えているのが、消費減少の一因。
3 家計可処分所得が最低限まで落ちたので、主婦や高齢者が働き始めた(P77)。これについて筆者は、2014年の消費増税の裏の目的は、生産年齢人口の減少に対する対処だったのか、、、と冗談とも本音ともつかないことを書いている。
4 日経平均先物は夜間に上昇するので、16時半に買って翌朝6時に売るべし(P95~6)。
5 外貨準備は米国債から金にシフト。特にロシアの金準備増強が凄まじい(P145~6)。
6 主食が高騰すると動乱が起きた(P160~1)。欧州ではフランス革命、我が国では、天保の大飢饉(1833年)や米騒動(1918年)。
本書の発行は2021年12月。ウクライナ戦争の前だが、特に上記5,6を読むと、深く納得すると同時に、この戦争が長引いた場合、食糧やエネルギーがきっかけで新たな動乱が派生的に連鎖しまいか、とても心配になる。そんなことをただ何となく、ではなく、小麦の価格と長期金利の水準がどの程度になれば、その可能性が現実的になるか、そんなことまで考えてしまう本だった。