旅のガイドブックである。ただし「負の記憶を巡るダークツーリズム」という副題からわかるように、普通の旅行ガイドではなく、戦争、災害、差別など、悲劇の舞台となった地を巡るガイドだ。僕もテレビのニュースか何かで、こういうツアーをしている人を見たことがある。アウシュビッツや原爆ドームを巡っていたっけ。今、注目されているツアーの一形態らしい。したがって、別に「不謹慎」と言うほどのこともない。通常とはちょっと違った観光記、と言う感じか。
本書は全体を5つに分け、それぞれ以下のようなテーマが設定され、その下に各所の観光記(と言うよりルポルタージュ)が収録されている。
Ⅰ 天災・人災の記憶
Ⅱ 喪失する産業の記憶
Ⅲ 戦争の記憶
Ⅳ 差別・抑圧の記憶
Ⅴ 生命と悲しみの記憶
この中からいつくか見て行こう。
Ⅰ 解体するあの日と明日<旧大槌町役場と東北の震災遺稿>(P10~15)
旧役場庁舎は「2018年に町議会で解体案が諮られ、結果は賛否同数、議長採決で解体案は可決となった」。これに対し「旧中浜小学校は、復興交付金を使い、震災遺構として整備、保存される方針」らしい(2020年9月から一般公開)。震災遺構について、国は復興交付金による支援を市町村ごとに1か所と限定し、しかも整備の初期費用のみに絞っているようだ。仮に遺構となっても、維持管理など大変だろう。僕のような部外者が軽々に判断できる問題ではないな。教訓や悲しみと言う、目には見えないものを残すことの難しさに、東北は満ち溢れている。
Ⅰ 根絶と絶滅の間で<キョンとニホンオオカミ>(P40~45)
「八丈島のキョン」と聞いてピンとくる人はどれだけいるかな。マンガ「がきデカ」に登場して一躍有名になった、小型のシカである(原産は中国)。僕はこまわり君の影響を強く受けているので、今でもキョンは人気者とばかり思っていた。キョンは伊豆大島や房総半島にも持ち込まれたが、台風(前者)や施設の経営破綻(後者)をきっかけに逃げ出し、野生化した。繁殖力は強く、農作物にも被害を及ぼすようにまでなったという。2005年には「特定外来生物」に指定され、これを受けて伊豆大島では「キョンとるず」なる捕獲チームを結成したらしい。ところで「八丈島のキョン」は、同指定後にオスの7頭すべてを去勢したので、繁殖の心配? はないとのことだ。
こういう話を聴くにつけ、人間は勝手だな、と思ったりする。自分たちの都合で、増やしたり減らしたり、去勢したり。考えてみれば、動物園にいる動物も、人間にすれば自由に見て回れるが、動物にすれば不自由だろうな。
まぁ、「がきデカ」の話は今回のテーマから離れるので、またの機会に譲る。ところで本書は本文二段組で250頁超と、かなり読みでがある。数回に分けて紹介しようと思う。