今の僕の状況は、のんきに読書しているバヤイではない。ドローダウンのレベルは100万を行ったり来たり。4~5月にかけてあれだけ苦しんだ介入相場が可愛く見えてくるくらいの値動きである。
でもまぁ、今回は読後感なので、相場の話はここまで。
著者の田中空(「くう」と読む)の専門は物理学。本作も「そうだろうなぁ」と思わせる内容だが、僕みたいな、ガチガチ文系ジジィでも読みにくいと思わせるところはない。一気に読めたね。その意味では、かなりの筆力の持ち主、とみた。
「未来経過観測員」と言うのは「れっきとした国家公務員で、国の未来を定点観測するのが仕事だ(P7)。本作の主人公、モリタは、高邁な理想を抱いて、ではなく、借金返済のために、この仕事に就いた。超長期睡眠技術によって、100年ごとに1カ月だけ覚醒し、レポートを作成するのが仕事。睡眠中にも給与が支給される、とのこと。まぁ、突飛な仕事だが、そういえば、昔読んだ村上春樹の作品(『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』)に、頭蓋骨の割れ目を読む(だったかな)仕事が出てきたが、あれは魅力的に感じたな。でも、裏返しに考えると、当時はそれだけ現実世界に不満があったということか。でも今回のモリタの仕事は、危険度が高い。それは読むとわかる。しかし、伴侶的な役割を果たすロエイやトスカニーニ、この二人の人物(?)像がとても魅力的に描かれており、危険な旅路が描かれている割に、楽しく読めてしまう。
こういう作品に当たることがあるので、読書はやめられないよ。