Rocco's log ~プログレ好きの警備員 trader with 社労士~

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『ライナー・ノーツって、なんだ⁉』(かまち潤 著 アルファベータブックス 刊)読了。

先日、図書館に本を探しに行って、検索するともなしにしていたら、たまたま本書が目に留まった。「ライナー・ノーツについて書いた本か。珍しいな」著者は、かまち潤とある。この人の本なら外れはないだろう、と思い、借りることにした。

ライナー・ノーツは主に洋楽アルバムの中に入っている、アーティストや楽曲に対する解説書のこと。日本人アーティストの作品にはほとんど付かない(P12)。理由は情報の入手のしやすさに起因する、と著者は言う。ネット時代にはなったが、やはり海外よりも自国のアーティストの方が、情報の入手は比較にならないほど簡単だろう。

と言うことは、英米のファンにとってみれば、英米のアーティストはまさに自国のアーティストであり、彼らのアルバム作品には、日本で見られるような詳細なライナーは付かない(P30)。あるのはアルバム・ノーツ(レコードジャケットの裏面に、アーティストの説明や楽曲解説、録音データや写真などをあしらったもの)。そして日本盤のライナー・ノーツは、このアルバム・ノーツが手本になった、と著者は主張する(P30)。驚いたことに、グラミー賞には、アルバム・ノーツに関する部門もあるらしい。日本盤のライナー・ノーツは、ここからスタートし、徐々に進化してきたらしい。

僕もロックを聴き始めてすぐに、本国盤と日本盤の違いに気づいた。前者は後者よりも発売日が早く価格も安い。また、ジャケットの質感も良いものが多い。後者はその逆で、どうしても本国よりも発売日は遅くなる。ジャケットの質感も、厚紙にジャケット写真を張り付けたものが多く、見劣りするものが多いし、価格も高い。しかしこのハンディを補うものが、ライナー・ノーツである(P47)。アーティストや楽曲に対する詳細な解説、歌詞とその対訳、中には期間限定で(早く買ったファンへの特典)プレゼント企画が付いている作品まである。僕も最初のうちは、毎週末に友人と待ち合わせて、新宿あたりの輸入レコード店を熱心に回ったりしたものだ。でもそのうち、日本盤の発売を待つようになった。歌詞の日本語訳が欲しかったのが、最大の理由だ。

著者は国内盤、輸入盤の両方を購入してきたらしいが、輸入盤にはとんでもない思いをした経験があるという。「レーベル、盤ともに問題はないが、かけると音楽が全く異なるアーティストのものだった」というもの(P47)。さすがに僕にはこのような経験はないが、本書を読んでいて、自分もかつて面白い経験をしたことを思い出した。次のようなものだ。

 

高校生の頃、西銀座デパート(今のINZ2の辺りか)に入っていた輸入レコード店で、ムーディ・ブルースの『夢幻』と言うアルバムを買った。小さい店で、店員は一人、みうらじゅん風のあんちゃんが、異様に狭い席に座っていたのを覚えている。以下は、このあんちゃんと僕との、覚えている限りの会話内容。

僕:あのう、先日ここで買ったこのアルバムなんですが(ここで袋から『夢幻』を取り出す)

あんちゃん:ん、どうしたの? キズでもあった?

僕:いえ、そうじゃないんですが、、、終わらないんです。

あん:え、どういうこと?

僕はあんちゃんに、最後の曲のエンディングに効果音が入るが、その音が、曲が終わってレコード針が中央のレーベル面に向かって動いても、一向に消えないことを話した。

あんちゃんは、僕の言っていることを確かめるため、店のターンテーブルにそのレコードを載せて曲のエンディングをかけてみた。

あん:確かに終わらないねぇ。でも、似たような曲もあるよ。これとはちょっと違うけど、終わり方が変なの。キング・クリムゾンの『リザード』ってヤツだけどね。

僕も今では『リザード』のエンディングを知っているが、このときに既に聴いていたかどうかは、忘れてしまった。多分、まだ聴いていなかったかも知れない。

あんちゃんはしばらく思案していたが、売り場の棚からもう1枚『夢幻』を取り出すと「これをかけて、お客さんのと同じなら、交換しないでいいかな」

僕:わかりました。

あんちゃんは、売り場にあった『夢幻』のジャケットからレコードを取り出し、ターンテーブルに載せて、エンディング近くに針を下した。効果音は、、、曲が終わってしばらくすると、消えた。僕が買ったのは、曲が終わっても延々と(エンドレスで)効果音が聴こえていたので、全く違っていた。「これはちゃんと終わってるね」と言いながら、あんちゃんはレコードを袋に入れてジャケットに戻し、僕が持って行ったレコードと交換してくれた。

この話には後日談がある。

友人のI(あのI君だ)と『夢幻』の話をしていた時のことだ。

僕:あれって、効果音で「終わるんだ」よね?

I:そう。あのエンディングは「ずっとあのまま」なんだよ。変なことやったよね、アイツら。

僕:(驚いて)え、エンドレスでなり続けるの?

I:そうだよ。君の、違うの? だったら不良品だよ。交換した方がいいよ。

 

この後Iとどんな話をしたか、忘れてしまったが、西銀座デパートでの件は言わなかった。まったく、冗談のようなホントの話である。

数年後にこの場所を通ったとき、すでに輸入レコード店はなくなり、雑貨屋か何かに変っていた。それからさらに数年して、CDの時代がやって来る。アナログ盤にあるようなお遊びは出来なくなってしまった。最近アナログ盤が復活しているのも、音質の面以外に案外こういったお遊びも大切な要因になっているのかも知れない。

 

本書の後半では著者が手掛けた主なライナー・ノーツが「作品」として掲載されている(P81~)。中でも「代表作」はS&Gの『イン・セントラルパーク』だろうか。一般の書籍にこういったものを転載するのも異例だが、著者のライナー・ノーツに対するこだわりがうかがえる。

終章では、著者の書いた主なライナー・ノーツが経年で載っている(P156~)。これを見ると、好きなことを仕事にするのも大変だな、と思うね。T・レックスもあれば、バリー・ホワイトやオズモンズも、、、。先日の本欄で、僕が詰まらないと思う曲(あるいは興味のない曲)のことを書いたが、著者のようなプロは、自分の興味とは無関係に書かなければならないときもあるのだろう。もっとも、興味のない仕事は引受けなければ良いだけの話なのだが、フリーの立場で仕事をしているとそう簡単には行かないことは、僕も経験上よくわかる。

何にせよ、この仕事は大変だ。