Rocco's log ~プログレ好きの警備員 trader with 社労士~

社労士試験、投機関連(大阪金先物が中心)その他諸々。このブログのトレードに関する箇所は、僕の勝手な相場観を書いています。価格も僕の予測に過ぎません。内容の正確さに最善は尽くしていますが、一切の責任を負うものではありません。売買は必ずご自分の判断で行って下さい。また、記事中で氏名の敬称は原則として省略しています。ご了承ください。

『まちの相場師』(岡西日出夫 著 幻冬舎ルネッサンス 刊)読了

天才投資家たちの思考回路 という副題がついているが、本書はルポではなく、投資家を主人公にした短編小説集だ。

<著者紹介>によると、1934年生れの岡西は大学卒業後、みずほ証券に入社。国内営業の他、企業調査、投資顧問業務にも携わり、海外(フランクフルト、ジュネーブ)勤務経験もある。そして興味を引くのは、同業者である、という点だ。62歳から行政書士・社労士事務所開業、とある。しかし残念ながら、2013年6月に逝去されている。

本書の初版は著者逝去後の2013年9月、ご遺族がまとめたらしい。僕が書店で偶然見かけたのは、今から5,6年前だ。その時一気に読んでしまい、その後も時間のある時に、気に入った作品を拾い読みするなどしていた。今回改めて読み返した、と言う訳だ。

「オビ」には「ストーリーでわかる投資の心得」などと書いてある。本書収録作品の末尾にも、「投資の心得」として、各作品の要点的なことをまとめてあるが、これは必要ないと思う。あくまで推測だが、編集者や遺族が付けたのではないかな。こういうことを作者がやるとは思えないが、、、。

岡西の経歴や作品中の表現などから判断すると、各収録作品が書かれたのは、我が国の高度成長期から、バブル崩壊とその後の金融危機を経て、ネット取引が始まる直前まで辺り、という感じか。今のネットトレーダーにはピンとこない話もあろうが、僕が株を始めたころはまだ対面取引だったので、本書の内容はよくわかる。また、電話からPC、スマホへと投資のツールは変化しても、投資家の心理は変わるものではない。ネットの書評では、古い時代の本なので参考にならない、的な評価もあったが、そんなことはない。何より、小説作品として読みやすく、コンパクトにまとまっているのが良い。

収録作品の中の代表作ともいえるのは、巻頭に収録されている「社員大株主」だろう。高卒の平社員が、自社の株をコツコツ買っていき、ついには大株主になる、という話だ。これだけだと単純な話のように聴こえるが、筆の運びが上手く、引き込まれて読んでしまう。他にも、客が買った銘柄を他の客に推奨する証券営業マンの話(「百丁切り」)、金融危機時に銀行株を大量に買った男の話(「相場に学問は無用」)、赤字で無配のボロ株(本作に登場する「ボロ株」は、何と「日本郵船」である)を大量購入し、資産株として持つ男の話(「無配株が資産株」)など、面白い。

ただ、現時点とは社会経済情勢も、取引ルールも異なる。したがって、本書に出てくる銘柄を同じように保有しても儲かるとは限らないのは当然だ。その辺は物語として、割切って楽しめば良いと思う。

僕は著者の他の作品も読みたいと思い、版元に問合わせたことがあったが、結局、連絡はもらえなかった。ひょっとしたら、ごく私的な、同人誌などに掲載されたのかも知れない。本書未収録作品も、機会があれば読んでみたいね。