問1 Eを除いて平成26年7月30日付け 「多様な正社員」の普及・拡大ための有識者懇談会報告書 からの出題。この懇談会の参集者の中に、水町勇一郎氏(社労士試験労働系科目の試験委員)がいる。この報告書は「正社員」と「非正規雇用者」の働き方の二極化を緩和し、労働者一人ひとりのワーク・ライフ・バランスと、企業による優秀な人材の確保や定着の実現のため「職務、勤務地又は労働時間を限定した多様な正社員」を労使双方にとって望ましい形で普及させることを目指し、政策提言を行っています。僕もこの問題を受けて、手持ちの資料を調べてみましたが、労働契約法の直近改正の研修資料の中に、事業主向けに同報告書のポイントをまとめたもの(A4版4頁)が見つかりました。僕のメモなどはないので、おそらく配布されただけで何の説明もなかったかと。現在一部の企業で行われている「勤務地限定」や「職務限定」の正社員の一層の導入を国は見込んでいるわけで、我々としてもその動きを知っておく必要はあるでしょうが、受験生の立場から言えば、条文からのダイレクトな出題ではない分、取り組みにくかったのではないでしょうか。
こういう問題が出ると、日頃の試験委員の活動について、ある程度の関心は持っておくべきか。
問2A 生協勤務の理学療法士である職員(管理職)が妊娠を契機として軽易な業務への転換を求めたところ、配置転換に際し管理職から免じられ、休業終了後に職場復帰した際にも、元の管理職に戻されないままでの勤務を余儀なくされたことを、雇均法9条3項違反であるとして、使用者を相手取って地位確認請求等を行った、いわゆるマタハラ事案です(広島中央保健生活協同組合事件)。
B 労働者の過重な業務によってうつ病を発症し、それが増悪した場合において、使用者の安全配慮義務違反に基づく損害賠償額を定めるに当り、労働者が自らの精神的健康に関する情報を使用者に申告しなかったことをもって過失相殺をすることができないとされた事例(東芝うつ病事件)。企業側には厳しい判決です。
ほかの選択肢はさほど問題ないでしょう。
問3 珍しく労働分野の方からの社労士法の出題。アが明らかに誤りなのでBは比較的選択しやすかったのでは? オは、この選択肢にある役務の提供については、クーリング・オフの適用除外取引となる。
問4 ABの2つまでには絞り込んで欲しかった。DEはなんとか判断できたのでは。しかし、Cは直近の調査ではなく(平成24年のもの)、ここまでフォローするのは通常は困難だ。
問5 労働経済白書から。まさに各人の労働に関する常識をフルに働かせて解いて欲しい設問。A〜Cは比較的判断しやすいのでは。Dで「60歳未満の正規雇用者に占める転職経験のない者の割合」としての「6割近く」という数字をどう捉えられたか。Eについては、リーマンショック後のボラティリティの高いマーケットの下では、多くの企業で人件費を変動費化することで対処してきたことを考えると、この選択肢はやや矮小な感じが否めない。
この中で、問2・3は得点して欲しい。出来れば問1も。問4・5(特に問4)は、厳しかったか。