本書は我が国の主要な作家を、エンタメ系と純文学系に分類し、各作家の主要作品をそれぞれ100点満点で採点したブックガイドである。福田版は2000年4月、小川版は2021年12月の刊行だ。
僕は福田版を2000年5月に買ったのだが、その時すでに4刷。この手の本はそれまで目にしたことが無かった。僕に限らず、本書を手にした多くの人が同様に思ったのだろう。しかし考えようによっては凄い本である。何しろ、有名作家のベストセラー作品でも、「29点以下(人前で読むと恥ずかしい作品)」にランク付けされているものもあるのだから。
福田版では、船戸与一の諸作品に対し「20点以下、測定不能」と言う殺人的に低い評価を下している。しかしこの後、船戸作品は直木賞を受賞する(『虹の谷の5月』)。僕はこれを見て、作品に対する評価なんて主観的なものだなぁ、と言う感覚を持ったのだが、実際は福田版に対して、もっと生々しい業界の反応があったようだ。小川版には「福田版刊行当時、福田氏への異議申し立てはほとんど文壇から上がらず、その代わり多くの作家や編集者が、福田氏を忌避し始めた(P13)」と書いてある。
表立って声高に批判するとかえって目立つ。そうではなく、福田氏の周りから静かに人がいなくなったのであろう。本当のことを書くと友達が減っていく、と言うのはどこの世界でも同じのようだな。
僕は福田版についていたアンケートに「このブック・ガイドは年度版にして、毎年、その年に発表された作品に対し、同様の方法で採点し発表してほしい」と書いたが、文壇にはそのような意見を歓迎する動きはなかったようだ。
ところが突然、昨年になって、小川版と言う続編が出版された。もちろん小川は、福田版の存在を知っていたのだろう。飛鳥新社から執筆依頼があったとき、かなり迷ったようだ。最終的には執筆することになるのだが、福田版の体裁・形式を踏襲しつつ、作家や個別作品に対する評価記事をより詳細にすることで、収録作家数は福田版と同様100人であるのに、本自体の厚さは1.5倍くらいある。それだけ丁寧に書いてあるともいえるが、中には採点不能やマイナス評価まであり、この辺は読者サービスと言うか、読者に対して、色々な意味で興味を持たせる効果はあるかも知れない。収録された現役作家も、福田版と言う先例が既にあり、免疫も十分だろう(100人中ほぼ半分の49人が福田版と人選が重なる)。
僕が過去の本欄で取り上げた、村上春樹や又吉、柳美里、西村賢太等ももちろん本書に収録されている。
読書意欲はあるが、時間の限られる人間にとって、本書(福田版、小川版)は、各作家の特徴と、当該作家の作品で、まず読むべきものを端的に示してくれる。こういう本が読めるのも、本好きにとっては嬉しい限りだ。