『こわされた夫婦』(稲田豊史 著 清談社 刊)
「ルポ ぼくたちの離婚」という副題からわかるよう、様々な形の離婚について、著者が聴取り、まとめたもの。多くは、離婚した元夫が元妻について語ったものだが、2例だけ、元妻が元夫について語ったものが含まれている。実は貸出期限の到来で図書館に返却してしまい、いま手許にない。よく、離婚原因に「性格の不一致」が挙げられるが、それを個別具体的に書くと、本書の事例のようになるのだろう。まぁ、淡々と描かれているが、どれも結構な修羅場である。地獄と言って良いものもある(著者もそう表現している)。
細かくは書かないので、興味のある方はどうぞ。僕は本書を読み終わった後、昔読んだ丸山健二のエッセイを思い出した。そこには、「自分には絶対に病気をしない妻がいた」というようなことが書かれていた。作品名は忘れてしまった。『メッセージ/告白的青春論』だったかもしれないが。僕は、ここで丸山が言う「絶対に病気をしない」を「心と体が共に健康」と解釈したが、稲田の著したこの本に出てくるのは、これとは正反対に近い人物だ。これを「時代の流れ」として論じるのは、多分、正しくない。本書に紹介されているような夫婦の離婚は昔もあった。だが、それを取りまとめて紹介する、本書のような作品がなかっただけだろう。
その意味では貴重な作品。
『動くはずのない死体 森川智喜短編集』(光文社 刊)
『短編集』とあるが、僕が読んだのは表題作だけ。殺人という重いテーマを扱っているはずなのだが、筆致はいたって軽妙。そのアンバランスが面白い。こういう特徴のある作家には固定ファン的な層ができるものなのだろう。しかし、僕はその中には入らないな。僕が今まで読んできた「殺人」が絡む作品~金田一耕助にせよ、金田一一にせよ~には、それなりの「重さ」があった。だが本作には、そういったものがほとんど感じられない。それがこの作家の売りであり、存在意義なのだろうが、どうも僕は本作を「魅力的な」というくくりでは捉えることができなかった。