Rocco's log ~プログレ好きの警備員 trader with 社労士~

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「『孤独の力』を抱きしめて」(落合恵子 著 小学館 刊)読了。

調べてみたが、この人は小説やエッセイなど、結構多作。だが、僕が読むのは、この本が初めて。本書(発行は2011年6月)も、購入は大分前だが、今まで積読になっていたものだ。

中高生の頃、ずっと深夜放送を聴いていた。読者の中にもそういう人は多いと思う。著者もこの頃、担当曜日は忘れたが文化放送の「セイ! ヤング」のパーソナリティを長く勤めていて、僕はそれをよく聴いていた。当時は深夜放送全盛時代で、ナッチャコパックやら谷村新司のセイ! ヤング、それから週末のエッチ系(誰がパーソナリティだったかな?)とか、結構色々と聴いたものだ。その中でも落合の番組は、雰囲気が他とは明らかに違っていた。悩み相談系、と言うか。今思うと、番組では彼女はあたかもカウンセラーのような役割を果たしていた感じだ。

もちろん、深夜放送なので、リクエストTop5的なコーナーもあった。覚えているのは、彼女の担当日だけ、ウィングスの「マイ・ラブ」が1位を取っていたこと(やはりリスナーの層が他の日と異なっていたのだろう)。それから、ある時ピンク・フロイドの「アス・アンド・ゼン」を紹介するとき「US・アンド・ゼン」と紹介した後、恥ずかしそうに訂正していたこと。そんなことを覚えているが、肝心の番組の内容はよく覚えていない。それでも聴き続けていたのは、この時間の雰囲気が好きだったのではないか、と今では思う。

僕が彼女について覚えていることで、強く印象に残っていることがある。文化放送退職後しばらくして、彼女のインタビューがあった。僕が覚えているのは、その内容ではなく、インタビュアーの感想の方。「彼女はもう「レモンちゃん」なんかじゃないわ。とってもラジカル」とそこには書いてあった。

その後の彼女の歩みを辿ると、弱く、問題を抱える立場の人々に寄り添い、発信していこうとする姿勢ははっきりしている。本書もその流れの中の一冊だ。本書は「孤独」と向き合い、それを自分の力にする、と言う感じの記述が随所に見られる。つまり、孤独を必ずしもネガティブなものとはとらえていない。印象的な記述をいくつか紹介しよう。

1章では「あなたは今、孤独ですか?」などの質問を50人に対して行い、その回答を載せているが、「孤独を解消しようとは思わない」という71歳(当時)の女性書道教室主催者の回答(P35~7)は印象的だった。

5章は「上質な孤独を作る方法」についての考察。その中の一つ、「実現不可能と思われる夢を一つか二つ持つ」(P130)では「夢は実現しなければ意味のないものだろうか」と問いかけている。デカい夢を持てた人生は楽しくないだろうか、と。

また、女性の読者は、P133以降の「エレ二」の物語に得心するのではないだろうか。

6章「このひとたちの孤独」では、様々な分野の先駆者である女性の孤独について語られる。P154では、キャサリンマンスフィールド作品を卒論の対象にしようとしたが、指導教授に断られた、と言う落合の体験が語られる。酷い奴だねぇ、この教授。ちなみに、僕の卒論は、映倫の自主規制と表現の自由についてのものだったが、所属していたゼミの中で、それまで映倫を主題にした者はいなかったので、指導教授は、岩波の映画関連講座本を購入するなど、僕の卒論のために大変な準備をなさったことを後で聞いた。

7章では、著者が孤独とどう付き合ってきたかを、1年を通じて日記形式で書いている。ここまで来ると、孤独と言うより、一人の時間を大切にする人の日記、と言う感じがしなくもない。リリアン・ヘルマンの『ジュリア』(P176)、ベティ・デイビス主演の『イヴの総て』(P209)と言った作品の紹介は著者らしい。しかし、もっとも臨場感を持って迫ってきたのは、著者が「セクシャル・ハラスメント」と言う概念を英語圏の資料によって初めて接したときの驚きだ(P210~3)。「セクシャルと言う言葉も、ハラスメントと言う言葉の意味も知ってはいる。しかしこの二つが一体となって、一つの概念が示されている」。「多くの女性たちが苦しみながら、一人で抱え込み(中略)しかし「それ」を表現する言葉を見つけられないまま、その無念さを胸に秘めるしかなかった」。「私が受けていた被害は、まさにこれだったのだ」。著者は「セクシャル・ハラスメント」と言う言葉をあえてメディアで多用した。その後、少しずつ、社会は動いていった。

社労士受験生は、セクハラ防止について、○○年の改正で配慮義務から措置義務に~、などと覚える。もちろんそれも重要で、否定はしないが、本書のこの件は、ハラスメント防止に向けて社会が動き出す、その最初の瞬間が書かれている、と僕は捉えている。

 

孤独担当相の創設や孤独死など、孤独についてのワードは近年、本当に良くお目にかかるようになった。本書は10年以上前に出た本だが、内容的には今でも充分読むに耐える力を持っていると思う。