Rocco's log ~プログレ好きの警備員 trader with 社労士~

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『75歳、交通誘導員 まだまだ引退できません』(柏 耕一 著  河出書房新社 刊)読了

 

7月の本欄に書いた『交通誘導員ヨレヨレ日記』の続編。本書にも記載があるが、前著が7万部を超えるスマッシュヒットを記録したので、新聞の連載コラムをもとにした本書を別の出版社から出すことになったらしい。僕の友人にも出版業界40年以上という人物(Tさん)がいるので、彼に本書のことを訊いてみた。まず、7万部と言う数字について。この業界ではよく数字を「盛る」が、経緯を見たところ、この7万、と言う数字は結構信頼できそう、と言うことだった。簡単に印税を計算すると、約1000万円。Tさんも驚いていたが、それでも交通誘導の仕事を続けているのは、著者の言う通り「諸事情」があるのだろう。

 

本書の構成は以下の通り。

高齢者が約半数を占める業界でーはじめに

1章 後期高齢者でも働きます

2章 今日の現場も気が抜けない

3章 この驚くべき人間見本市

4章 コロナ禍の交通誘導員

あとがき

 

「はじめに」の記述にまず驚かされる。著者の勤務する警備会社は、70代以上が何と8割を占めるという。「齢をとっても働かざるを得ない、厳しい日本の現実」とあるが、今後はますます厳しくなるだろうな。

後の1~5章は、一応章立てはされているが、基本的には、著者が今までに現場で出会った人々の点描である。以下、印象的なエピソードを幾つか挙げて行こう。

「プロフェッショナル 仕事の流儀」(NHK)と言う番組がある。2021年9月に、当時84歳の警備員(Yさん)が紹介された。著者は、84歳になっても肉体労働を余儀なくされる社会(P29)について疑問を呈しているが、番組の趣旨からか、プロフェッショナル、と言う点に力点を置き、Yさんの貯蓄や年金額などの経済生活にかかる部分は明かされていない。著者はこれを「逃げている気がした」(P29)と表現している。僕も同感だが、おそらく番組の趣旨から考えて、経済的な部分はあえて触れなかったのかも知れない。

それから「上番(じょうばん)報告」や「下番(かばん)報告」という業界用語の説明も出てくる(P93~6)。僕もこの辺を読んで、会社ごとに色々なやり方があるものだ、と感心した。これは僕が聞いた話だが、ある警備員が出勤途中に電車の中で急死した。当然、いつもの出勤時刻になっても現れないので、現場はかなり混乱したという。なんせ、働き手に高齢者が多いので、この手のアクシデントは、今後も増えることはあっても減ることはないだろう。本書にもこういう時の対策としてか、上番報告を2度(出勤開始時及び勤務開始時)入れさせる会社のことが書かれている。このようにしておけば、出勤開始時の報告はあったが勤務開始時の報告が無ければ、会社としては、いつもと違ったことが起きている、と考えて、対応ができる。でも、本社の担当者は大変だろうけどな。

ワークマンと言う会社があるが、安全靴について、この会社に救われた、という記事を書いてもいる(P104)。

いじめの話も当然のように出てくる(P150~3)。個別労働関係紛争の中で、いじめに関する紛争は断トツに多い。ここで著者は、世の中で時々言われる「いじめられる方にも原因の一端がある」と言う考え方を完全に否定している。我が国の職場におけるいじめは、中学、高校からの延長だ。いじめられるのは特定の少数者。欧米にももちろんいじめは存在するが、我が国のいじめには、欧米諸国に比べ、肉体的と言うより精神的なもの、仲裁者は少なく傍観者が多い、と言う特徴があるという(「厚生労働省調査」「いじめに関する追跡調査と国際比較をふまえて」報告書)。ま、複数人で仕事をする以上、人間関係は発生するし、気の合う、合わないもあるだろう。でも、後期高齢者になってまでこんなことに気を遣って働かなければならない、と言うのも、大変な話ではある。

最終章では、前著を出版したときの反響や、高齢者の働き方についてのラジオ出演のことなどが書かれている。

前著『交通誘導員ヨレヨレ日記』を読んで「こいつは自分のことは自慢ばかり、他人のことは悪口ばかり」とネットに書き込んだ読者の話が出てくる(P167)。正直言って、前著のどこをどう読めば、こういう感想が出てくるのか、全く理解できない。

また、WBSテレビ東京 2019年3月)、ラジオ深夜便NHK 2021年5月20日)に出演したときの裏話的なこと(P173、183)や、朝日新聞(2019年11月10日付)の取材(P190)の様子など、なかなか触れることのできない内容の話であり、興味を持って読めた。

 

65歳まで働き、そこから先は老齢年金で悠々自適、と言うのは過去の話になりつつある。厚労省の提示するモデル世帯(夫が40年厚生年金保険に加入し、妻はその間国民年金の第3号被保険者)の年金額(月219,500円程度=2022年度)は条件の良い世帯の数字であり、実際はそれより少ない受給額(月201,000円程度=年金機構 21年度)の世帯が多い。

このブログの読者の年齢層は様々だろう。でも、著者のような仕事をするか否かはともかく、自分の高齢期の就労に対する、ある程度具体的なイメージを持つことは必要になってきた、と思う。

そのことが強く意識される本だ。