本書は書下ろしではなく、一部を除いて、2016~2021年の間に「文藝春秋」などに載った記事をテーマ別にまとめたものだ。各テーマは以下の通り。
Ⅰ 老人支配と日本の危機
そして、冒頭の「日本の読者へ」を読めば、上記各項目ごとの内容を概括できるようになっている。この構成は読みやすい。
上記のように4部構成をとり、書名もタイトル欄に掲げた通りなのだが、本書に通底するのは、米国(或いは、米英加に豪州とニュージーランドを含めた英語圏諸国)に対する信頼と、中国脅威論に対する疑問、の二つである。特に後者については「日本は中国がこれから世界の中心になるという幻想に惑わされてはなりません(P121)」。「そもそも「全体主義体制」の国が最終的に世界の覇権を握ることはあり得ない(P159)」(ほかにもあるが省略)と言うような筆致で、冷静な筆者にしては珍しく(或いは僕が知らないだけで、本当はこういう人なのかも知れないが)断定的な表現が目立つ。また、前者についても言うと、コロナ対策において、米国が流行の中心で「酷い状況」にある(2020年5月18日時点)」と報じられているが「注目すべきは州ごとの死亡率(人口10万人当たり)(P39)」。何と、ドイツよりも低い州が存在する。ここから筆者は「米国は「個人主義的」ですが決して”アナーキー”ではなく、社会に一定の”規律”が働いている」と読み解く(P40)。そして「米国を見くびってはいけません(同)」。当時は「中国式の監視・管理こそが、感染症対策として最も有効(P40)」と言う論調が支配的だった頃だ。この頃に、筆者のような視点で観察していた者は、少なかったのではなかろうか。
ヨーロッパ(英国を除く)については悲観的だ。「欧州はユーロとともに死滅しつつある(P171小見出し)」。ユーロの根本的な欠陥は、各国が、経済上、人口動態上、多様化しているまさにその時に、通貨による強引な統合を強制したことにあります(P174)」。
英国のEU離脱についても、否定的な論調が多いが、筆者はこのような論調を「残薄」だとする。英国は、一旦決断して戦争(筆者は英国のEU離脱交渉を、一種の”戦争”とみている)を始めれば、負けたことが無い(P180)」。背後には英語圏諸国(上述)が存在している。「人口は既に欧州(EU)諸国よりも英語圏諸国の合計の方が多い(P114)。英国を甘く見てはいけない、と言うのが筆者の考えのようだ。
日本の立ち位置としては「日本はアジアの英国になり得る」として、米国が求める特権的な同盟国になり得る(P124)、と説く。そのためには「日本にとって最大にして唯一の課題(P69)」である人口減少への対策として、移民の受入れを強く主張し、これを賢明に管理することが重要と説く(P72)。しかも、単に主張するだけでなく「移民政策で犯しがちな過ち」とそれに対する処方箋まで提示している(P72~80)。
我が国への愛情にあふれた一冊だ。