Rocco's log ~プログレ好きの警備員 trader with 社労士~

社労士試験、投機関連(大阪金先物が中心)その他諸々。このブログのトレードに関する箇所は、僕の勝手な相場観を書いています。価格も僕の予測に過ぎません。内容の正確さに最善は尽くしていますが、一切の責任を負うものではありません。売買は必ずご自分の判断で行って下さい。また、記事中で氏名の敬称は原則として省略しています。ご了承ください。

『日の名残り』(カズオ・イシグロ 著 早川書房 刊)読了

良い作品だった。名家に長く仕えた(現在も仕えてはいるが、雇主が米国人に変わっている)執事(スティーブンス)が、かつて同僚として働いていた女中頭(ケントン)に会うため、休暇をとって英国西部に赴く六日間の自動車での旅を、スティーブンスの回想を交えて綴った作品。ケントンからの手紙を読んで、再び一緒に働く気はないか確認することが、旅の大きな目的であった。この旅は1956年の設定だが、回想の多くはケントンと共に働いていた1930年代(両大戦間の時代)の話だ。特に物語(と言うほどドラマチックなストーリィ展開があるわけではないが)の後半では、両大戦間の英国の置かれた微妙な立場、というか様々な政治的意見を、スティーブンスの語りを通して読者は知ることになる。我々は第二次大戦の結果を知っているので、英国の姿勢に揺らぎは無いように思っていたが、当時、英国内にも様々な意見があったことが、うかがい知れる。

執事の回想なので、僕のような一般の読者には分かりにくいところもあるのは事実だ。しかし読み進んでくると、執事「業界」での序列や、執事の品格に対する考え方が多く語られるようになる。面白いのは、読みながら、この堅物(スティーブンス)の仕事人生に自分を重ねていることだった。僕も社労士という国家試験の受験「業界」で長く仕事をしてきた。その間、嬉しいこと、悲しいこと、怒り、恥など、様々な感情の交錯があったからな。

そしてスティーブンスはケントンと再会する(つまり、この物語の中での「現在」に到達する)。叙述の時間軸が徐々に狭まって現在に収斂される手法も素晴らしい(同時に、自分の「現在」についても色々と考えてしまったよ)。本作を読むきっかけは、ある週刊誌に乗ったレビューだった。僕自身、良いタイミングで本作に出会えたと思う。

 

僕が手に取ったのは、イシグロのノーベル文学賞受賞(2017年)記念版として出版されたもので、巻末には村上春樹が解説文を寄せている(二人は、互いの作品をほとんどすべて読んでいるらしい)。解説後半には、村上によるイシグロ作品の包括的分析が書かれており、これも興味深い。

 

本作は、アンソニー・ホプキンスの主演で映画化もされているという。僕は未見だが、観たくなってきたな。