Rocco's log ~プログレ好きの警備員 trader with 社労士~

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『現代日本経済史』(田村秀男 著 ワニ・プラス 刊)読了

大仰なタイトルだが、副題に「現場記者50年の証言」とあるように、著者が経済記者(日経新聞産経新聞)として関わった、日本経済50年の歴史を振り返ったもの。

本書は全5章から成り、その構成は以下のようなものだ。

1章 1970年代前半 高度成長期の終焉

2章 1970年代後半 ショック続きの日本列島

3章 1980年代   転換の時代

4章 1990年代   激動の時代

5章 2000年代以降 課題山積の時代

 

「経済史」とはなっているが、歴史の教科書的な書き方ではなく、各年代に起こった経済事件に、著者が記者としてどう関わったかを、取材の裏話的なことも含めて書いているので、読んでいて飽きない。

70年代前半、ということで、よど号ハイジャックやニクソン・ショック、日米繊維交渉の話からスタートするが、読後に印象に残ったのは、ロッキード事件やダグラス・グラマン事件以降、米国の方針にタテついた人間は、政治家であれ経済人であれ、ろくな末路を辿っていない、という現実だ。

我々は太平洋戦争で米国に敗北して国土は焦土と化し、300万人を超える戦死者を出した。この多大な犠牲と引き換えに米国から、自由・民主主義・チョコレートをもらった。以降、米国に本当の意味で逆らうことは出来なくなってしまった。しかし本書を読むと、中には我が国の国益を堂々と主張した人物もいた。そのような点も踏まえて本書を紹介して行こう。

まず、田中角栄元首相。ロッキード事件について著者は「司法取引をしたコーチャン(ロ社副会長)は罪に問われず、日本側だけが責任を追及され、逮捕までされた。誰が見てもおかしな事件(P71)」と書く。田中は「米国の頭越し(P72)」に日中国交正常化を成し遂げた。更に、日本のエネルギー調達ルート多角化のため、ドイツや旧ソ連と、長期の外国訪問に出た。これも米系石油メジャーをないがしろにする行動(P72)、に映ったようだ。

プラザ合意以降。米国の産業界をドル高の危機から救うために、大蔵省(竹下蔵相)は嬉々として円高ドル安を受け入れた(P110)。竹下とは異なり、円高の影響を理解し、ベーカー財務長官と交渉するだけの根性も持っていた宮澤喜一蔵相でも、ベーカーを説き伏せることは出来ず、円高が進んだ。ベーカーはブッシュ(父)と同郷で、レーガンの政策では産業界が共和党から離れてしまう、と危惧し、産業界を共和党に引き付けておくにはドル高是正が必要で、そのターゲットが日本だった(P111~6)。

クリントン政権が用意した対日対策特別チームによる強力な円高誘導(P163)。自動車、金融、半導体問題で一定の譲歩を引き出した後の、対中接近(ジャパンパッシング P163~4)。

アジア通貨危機のメカニズム(P184)。ソロス・ファンドにとって、ドルペッグ制をとっていたタイなどアジア各国が絶好の稼ぎ場だったことが、ここを読むとわかる。また、この危機を経験したアジア各国及び日本が賛同し、榊原英資財務官が進めていたAMF(アジア通貨基金)構想の挫折の記述も興味深い。アジア通貨基金構想そのものに中国は賛同していたが、参加の表明まではしていなかった。ルービン米財務長官は北京で朱鎔基第一副首相と会い、AMFへの不参加を求めた。ちなみに朱鎔基はアジア通貨危機の際「米国のファンドが香港ドルの投機売りを仕掛けるなら、我々は香港ドル買い支えのため、米国債を大量売却しその資金を使うつもりだ」とルービンに伝えたことがある(P181)。AMF構想を阻止するため、日本を挟み撃ちにしようと米中が歩み寄った構図が見えてくる。

米国債と言えば、1997年にあった橋本首相の、米国債売却誘惑発言のことも、当然載っている(P224)。本書ではこの発言は「日本は『いくら世界のためだ。黙って金を出せ、と言われても』米国のキャッシュ・ディスペンサーにはならない」と言った、中川昭一財務大臣の発言と併せて紹介されている(P222~5)。中川財相については著者は個人的にも知っていたようで、例のローマでの酩酊会見時には「誰かが仕掛けたのではないか」との疑問が湧いた、と書いている(P228)。結局この二人(橋本、中川)も、ここに紹介した発言後、政治生命を失っていく(P224)。中川に至っては本当に命まで失う(このことについては2009年10月5日の本欄にも書いている)ことになるが、著者の田村も中川については同情的であり、評価もしている(P228~9)。

他にも、日銀総裁人事(P243~8,272~8)のことなど、面白く読めた。特に、白川総裁が一期目の任期満了を待たずに辞任し、黒田総裁に交代することになるくだりは、著者の推測も交えてはいるが、おそらくここに書いてある通りだろう、と納得させられる(P244~5)。

 

我が国を全体主義国家にしたくはない。しかし、この米国との従属めいた同盟がいつまで続くのか、という思いも、読後感として抱かざるを得なかったな。