Rocco's log ~プログレ好きの警備員 trader with 社労士~

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『ほんとうの定年後』(坂本貴志 著 講談社現代新書)読了

副題は「『小さな仕事』が日本社会を救う」。2月に週刊新潮で本書の特集記事が載った。それを読んで図書館に予約を入れたが、先日やっと僕の番がまわって来た。

 

基本的に良い本である。本書は以下の構成になっている

第1部 定年後の仕事「15の事実」(本欄はここを中心に書く)

第2部 「小さな仕事」に確かな意義を感じるまで

第3部 「小さな仕事」の積み上げ経済

 

昨年8月に刊行され、僕が手にしたのは11月に出たもので、この時すでに9刷。タイムリーな刊行だったことがわかる。特に、本書の内容から見て、僕のように(年齢的に)定年退職後で老齢年金受給世代に該当する者より、現在40~50歳代で、会社員人生の後半戦を戦っているような人が読むのに適しているように思う。この年代の人は、バブル崩壊後に社会に出て以降、良い思いをしてこなかった、と言う気持ちも強い。「定年後の人生は捨てたもんじゃない」と言う本書は、この年代の人々にとりわけ響くものがあるのではないか。同時に、僕みたいに既に本書の「適齢期」を過ぎてしまったような者でも、気持ちの持ち方的な面で参考になる点が多々ある。

難を言えば、物わかりが良すぎる、と言うか、若年寄的と言うか、、、。著者は厚労省内閣府を経験し、「経済財政白書」の執筆陣の一人だったという。そういうことから、体制批判的な記述は見られない。その辺りにやんちゃさが足りない、と言う感じを受ける人もいるかも知れない。その中では、最低賃金の引き上げ幅に言及した箇所(P256)には、著者の本気度を感じた。

 

ところで、本書の肝は、定年後に就く仕事、まさにそこにある。著者は、定年退職後に、月10万円程度の「小さな仕事」に就くことにより、公的年金(例:60代後半で、月約19.9万円)と併せ、夫婦で月10万円程度の収入があれば、充分生活できる、と説く。こう書くと、当然、住宅ローンはどうするんだとか、ずっと健康ではいられないのではないか、とかの疑問がわく。本書は、このような疑問にも、統計を使って納得性のある説明をしているので、その辺は読んでいて安心する(「事実1」 P12~)。

また、「小さな仕事」に70歳程度まで就き、その後に引退して20年程度の人生を全うする、と考えた場合、平均的な年金給付に加えて、約1000万円ほどの貯金があれば充分、と著者は言う(「事実5 P44~」)。更に、「小さな仕事」に就くことで老齢年金の繰下げ受給、という選択を現実的に考えることができるようになる。

ただし、幾つか注意点もある。

気になった点は、老後は賃貸よりも持ち家の方が良い、と言う点。同感だ。賃貸だと高齢になっても、居住のための費用がコストとしてかかって来るが、これは無視できない。それに、住むところを探すことになった場合、すんなりと借りられるか、と言う問題もある(「事実2 P19~」)。

次に、現役時代に就いていた仕事と、これから行う「小さな仕事」との間のギャップを埋める心構えがあるか、と言う点。これについては、コロナ禍で、いわゆるエッセンシャルワーカーの重要性を我々は認識したはずだが、のど元過ぎれば熱さ忘れる、のことわざ通り、現在、彼らの労働を重視し、待遇の改善を声高に叫ぶ声はあまり聞かない。著者は静かな筆致ながら、このことについて非常に怒っている(「事実10 P91~」)。「高い収入や栄誉」を求めるキャリアから現場仕事への転換について、上手く行かないシニアも一定数存在するが、多くのシニアは、自分の中でそのような転換に折り合いをつけ、「誰かの役に立つこと」に価値を見出している(「事実13 P123~」)。

 

第2部は、7人の定年後の就業者についてのケーススタディ、第3部は、1,2部を踏まえての著者の論考となっているが、この中に出てくる「サービス品質の日米比較」の調査結果には驚く(P246~)。

「おわりに」では、全てを書き終えて達観の境地に達した著者の姿が目に見えるようだ。

僕は本書を図書館で借りたが、機会があれば購入していつでも読み返せるようにしたい。そんな本である。