Rocco's log ~プログレ好きの警備員 trader with 社労士~

社労士試験、投機関連(大阪金先物が中心)その他諸々。このブログのトレードに関する箇所は、僕の勝手な相場観を書いています。価格も僕の予測に過ぎません。内容の正確さに最善は尽くしていますが、一切の責任を負うものではありません。売買は必ずご自分の判断で行って下さい。また、記事中で氏名の敬称は原則として省略しています。ご了承ください。

マラマッド『最初の7年間』を読む。

昨年11/25の記事でも書いた、バーナード・マラマッドの短編集(新潮社刊)の最初に収録されている作品。

このときにも書いたが彼の作品は「普通の人間に起こる、些細な出来事が、良い形で終わる」。魅了された度合い、で言えば『夏の読書』ほどではないが、本作も僕の好きなエンディングだ。

ポーランドからの移民、フェルドは、NYで靴屋を営んでいる。フェルドには19歳になる、ミリアムという娘がいるが、店の前をよく通る大学生のマックスを娘に引き合わせたいと考えている。それは、勉強熱心なマックスの影響を受け、娘も大学に行ってくれることを期待してのことだった。ミリアムは進学を望まず、勉強ならソベルが読む古典の本(彼は読書家だった)を彼から教わればそれで間に合う、と考えていたのだ。フェルドはついにマックスと娘を引き合わせることに成功するが、その時、職人のソベルは怒って職場を出て行ってしまう。ソベルもポーランドからの亡命者で、フェルドが心臓の病気のために店をたたもうと考えていたときに、ふらっと現れて、仕事を求めてきたのだ。当時ソベルは30歳だったが、亡命の苦労のためか、金髪は既に禿げ始めており、身なりも粗末だった。それから5年、ソベルは主人の信用を得、今では彼なしではこの店は成り立たないところまで来た。

フェルドには、そんなソベルがなぜ職場放棄をしたのかわからない。代わりの職人を雇ってはみたものの、信用も置けず、ソベルとは比べるべくもない。ついにフェルドは、ソベルに戻ってきてもらうため、彼の下宿を訪ねる。そこで初めて、フェルドは、ソベルが職場を放棄した本当の理由を知るのだった。ソベルは、フェルドの下で5年間、ずっと、ミリアムのために働いていた。少女が娘になるのを待っていたのだ。それを知ったフェルドは「あれ(ミリアム)はまだ19だ。あと2年たったら、あれに話したらいい」、と2年の猶予期間を付けて、ソベルの気持ちを受け入れたのだ。

翌日、元の職場で仕事を再開するソベルの姿があった。

 

不器用で無口な職人の一途な恋。これが最終的に実るのか否かはわからない。しかし、タイトルに「最初の」と付いているので(原題は The First Seven Years )、二人は結ばれ、その後も続いたのではないか、と思っている(もちろん、そんなことは原作にはどこにも書いてない)。

ところで、マックスはどうしたって?  外見的客観的な条件では、ミリアムの相手としてソベルよりはるかにマックスの方が合うように見える。でも、彼女はマックスを選ばなかった。このくだりはミリアムの口から淡々と語られるが、理由は普遍的なものだ。こういうことに時代性は関係ないね。

本作は文庫本で18ページくらい。サラリーマンならランチタイムか通勤途上で読める。そういえば、電車の中で本のページを繰っている人は、ほとんどいなくなったな。