Rocco's log ~プログレ好きの警備員 trader with 社労士~

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西村賢太『苦役列車』(「文藝春秋」2011年3月特別号)を読む。

以前、又吉のときにも書いたが、芥川賞直木賞の発表時に読みたいと思った作品は、単行本ではなく、「文藝春秋」「オール読物」掲載時に購入する。しかし、買えば後はいつでも読める、という気になってしまい、ツン読状態に陥ってしまうこともしばしばだ。本作もそんな状態で、11年の間、僕の書庫に眠ったままだった。

そんな本作が覚醒したのは、言うまでもなく作者・西村の訃報に接したからだ。本作はほとんどが作者の実体験であろう。もちろん、出来事の順番を入れ替えたり、人物の設定をアレンジしたり、という脚色は少しはされていようが。作品名にある「列車」というのも、作者の人生の比喩だと理解できる。主人公は19歳だ。中卒で港湾人足という日雇労働をする身からすれば、人生の感じ方は川の流れのように穏やかな訳ではあるまい。まさに列車、だろうな。

ところで、単行本ではなく掲載号を買うには理由がある。まず、作者の周辺情報が豊富に掲載されている点。この時も「『中卒・逮捕歴あり』こそわが財産~自分の恥をさらけ出して書く。~私小説家としての覚悟」というインタビュー記事が載っている。これを読んでから受賞作を読むと、より楽しめる。

それから、これも見逃せないのは「選評」が載っている点だ。この時の選者の中に石原慎太郎がいるが、彼が「苦役列車」を強く推している。これを読むと石原は西村の「前候補作『小銭をかぞえる』を評価し孤軍奮闘に終わったが、」と書いており、早くからこの作者に注目していたことがわかる。

石原が本年2月1日に逝去した後、西村は読売新聞に「胸中の人、石原慎太郎氏を悼む」との追悼文を書いている。これによると、西村が石原に初めて会ったとき「お互い、インテリヤクザ同士だな」と声をかけられたという。「その真意は分からない」とも書いているが、石原は西村の「反逆的な一種のピカレスク」に、自分と似たようなものを感じ取ったのかも知れないな。

しかしこの直後、2月5日に西村は逝ってしまう。前記石原への追悼文が、彼の最後の原稿になったのか。54歳での逝去はあまりに早い。石原も「お前、もう来たのか」と驚いていることだろう。でも、「来ちまったものはしょうがない」とか言いながら、二人で小説の話をしているかも知れないな。

 

お二人のご冥福をお祈りします。