本書は「レールを外れる人生」の練習だ、と前書き部分にあるが、この一文で筆者に親近感を持った。僕の人生も、レールに乗った感、はあまりなかったからな(今でもそうだが)。
序文で、エジソンの有名な言葉について書いている。「天才とは、1%のひらめきと、99%の努力である」というアレだ。一般にこの言葉は、99%を占める努力の大切さについて言ったものとして広まっている。でも僕はずっと、99%努力して、あと一歩までこぎつけても、最後のピースがはめ込まれなければ完成しないだろう(つまり、無いも同然だ)、と思ってきた。著者によると、どうやら発言の主旨もそのようなものだったらしい。ところで、エジソンのこの言葉は、どのようなシチュエーションで語られたものなのだろう。本書はそのことには触れていないが、エジソンが登壇して、この言葉を一言だけ発して演説を終えたわけでもあるまい。世に名言と言われるものの類は数あるが、それらが発せられた状況を解説した本に出くわしたことはない。
その点本書は、「本当の本当に大事な部分だけを太字にし」(P28)、巻末(P278~)にそれらをまとめて再掲すると同時に、簡単な解説及び該当する本文中のページ数を付している。沢山あり、また、全部が納得いくようなものでもないが、言ってみれば、著者の「名言」を解説付きで読んでいるような感覚にとらわれる。だから、最初に本文を読んで理解が難しくても、巻末のまとめから本文を振り返ることで、理解が進むこともある。良い試みだ。
一つ紹介しよう。
「包丁は何も悪くない」(P124)
例として著者は、無料ファイル共有ソフト「ウィニー」の開発者である金子勇氏の名を挙げる。この技術は現在につながる重要なものだが、一部のユーザーの不正により、開発者の金子氏まで逮捕されてしまった。裁判では無罪が確定したものの、金子氏は開発に戻ることなく、2013年に心筋梗塞で亡くなったという。包丁を使った殺傷事件が発生したときに「包丁が悪い」とは誰も言わない。しかし、それが新たな技術だった場合は、社会の理解が追い付かず、得体の知れないものを悪者扱いしがちだ。ライブドア事件のときの堀江氏も然り。著者も2ちゃんねる立上げのときに同様の目で見られたことがあったようだ。
読書はタイミングも大切だ。ひろゆきの著作を読んだのは初めてだったが、本書も僕にとっては遅すぎた。20才代くらいまでの人が読めば、充分に、その後の人生の指針になり得る、と思った。