Rocco's log ~プログレ好きの警備員 trader with 社労士~

社労士試験、投機関連(大阪金先物が中心)その他諸々。このブログのトレードに関する箇所は、僕の勝手な相場観を書いています。価格も僕の予測に過ぎません。内容の正確さに最善は尽くしていますが、一切の責任を負うものではありません。売買は必ずご自分の判断で行って下さい。また、記事中で氏名の敬称は原則として省略しています。ご了承ください。

国家公務員に世襲でなることができる、という話を聴いたのは、

大学の講義で、科目は確か福岡正行先生の「行政学」だったと思う。相当昔の話だ。

今回『郵便局の裏組織 「全特」-権力と支配構造』(藤田知也 著 光文社 刊)を読了して、久しぶりにその話を思い出した。

もちろんこの頃はまだ、小泉改革による郵政民営化は行われていない。福岡先生の話の内容は、特定郵便局長がその座を子供に継がせる。試験はあるが形式的なもの、ということだったと思う。

初めて聴いたとき、そんなことが本当にあるのか、と耳を疑った。後に、僕自身が特定郵便局(長)からひどい扱いを受けたり、犯罪まがいの話(本書4章でも山ほど出てくる)を聴くようになってから、コイツら本当に国家公務員なのか、と疑うようになっていった。

本書を読むと、丹念な取材に基づき、当時の僕が感じたこの制度に対する疑問や怒りをきちんとしたカタチに表してくれているのがわかる。更に、近年問題になることが多い、企業のコンプライアンスについても、信じられない事実が語られている(P192)。

それは、簡単に書くと、こうだ。九州地区ナンバーツーの旧特定局長の息子である局長(コネ入社とのことだ)の信じられない素行の悪さを、他の局長6人の連名で本社に告発した。ところが、これを受けた本社のコンプラ統括部の最高責任者が、直接このナンバーツーに、息子について通報があったことを知らせたのだ。6人には一切断りなく。ここから犯人探しが始まる、、、。

こんな話は本書の内容のごくごく一部。すごい話が切れ目なく続く。

民間から転じた日本郵便の元経営幹部の話も載っている(P302)。曰く「郵便局を一つ減らそうとするだけで、局長会からものすごい反発や抵抗が沸き起こる」

局長会では「郵便局を減らすのは避けるべき。逆に今の局数が倍になるにはどうすれば良いか~」(P316)。著者はこれに関し「正気の沙汰とは思えない~」と応じている。

局数の維持にこれほどこだわるのは、それが政治力の維持につながるからだ。なんせ「多額の費用を組織に払わせ、自民党員になって政治活動に身を捧げなければ局長にはさせない実態(P326)」があるのだから。

 

本書は労作だ。本書を読んだ人は、中途半端ではない、徹底した民営化が必要だ、と誰もが思うだろう。ただし、読むと怒りがこみ上げてくるので、ミドルエイジ以上は、血圧の上昇には要注意だ。

『1年で億リ人になる』(戸塚真由子 著 サンマーク出版 刊)読了

ケタ違いの資産家に教わった「現物投資」の破壊力、と副題にあるように、本書は著者である戸塚が、「ケタ違いの投資家(師匠であるオリバーという人物がその中心)」と出会い、そこで対面や動画で学び、その結果自分でも「資産構築クラブ」というものを立上げ、生徒に対するコンサルを開始し、3か月目にFIRE、4か月目に資産1億を達成(P346,135~7)、という記録が書かれている。しかし、具体的に、オリバーからどのような教えを受けたのか、は書かれていない。おそらくここが戸塚のコンサルの”キモ”で、知りたければコンサルを受けろ、ということだろう。

ただ、本書の中に、築古不動産の一棟買い(P217~)、海外不動産投資(P233~)などが出てくるので、不動産投資関連が具体的なコンサル対象の一つなのだろう。そのための資金調達についても書いてあるが、基本は、なるべく大きな額を借りること。資金調達については、第3章(P142~)に詳しい。

僕は本書を図書館で予約したが、順位は400番近かった。区内で11冊の蔵書があるようだったが、それでも予約してから僕の順番になるまでに、数か月を要した。借りるまでにこれだけの時間がかかる本だ。すでに読了した人の感想や評価はネット上に溢れている。僕もそれらを少し読んだが、評価の〇✖は半々くらいだったか。株や先物について、著者はすすめてはいないが、現実的に考えて、資産を築く大きな手段となり得ることは、古今東西の様々な投資家が証明している。。この辺は、何を信じて投資するか、だろうな。

ところで、著者は老齢年金について「繰上げて、なるべく早く受給すること」と述べる(P173)。その理由は「いつ死ぬかわからないから」とのことらしい。僕は社労士として、相談者から老齢年金の繰上受給に関する質問を受けた場合、積極的には賛成しない。繰り上げると年金額が減ること以外にも不利益があるからだ。しかし、著者とよく似た理由に基づいて実際に老齢年金を繰上受給している人が、友人の中にいる。

年金以外にも、ちょっとこれは極端だな、と思ってしまう記述がある。「キャピタルゲイン」ではなく「インカムゲイン」タイプを目指すこと(P71~)。こういうことは、どちらかに固定してしまうようなものではないだろう。バツ3、というのも考えてみれば極端な話ではある(P336~)。

全編を読んでわかったのは、善し悪しの話ではなく、中庸な生き方、というものは著者のアタマの中には無いのだろう、ということ。書いてあることは真実(P18)だが、自己主張の押売りはしていない。本書を読んで本当に自分を信頼してくれる人だけを仲間に迎え、コンサルをする。著者はそう言っているようだ。

 

 

『時を追う者』(佐々木 譲 著 光文社 刊)読了

 

面白かった。

単行本380ページ。長編だが、長さはあまり感じない。

作者である佐々木譲の名は、本作ではじめて知った。しかし、奥付には1979年に『鉄騎兵、跳んだ』でオール讀物新人賞、とある。このタイトルには見覚えがあった。このころ僕は、高田馬場にあるスクールで、文章作成の講座をとっていて、担当の先生が、同じ賞を受賞していた。たぶん、その関係で覚えていたのだと思うが、読んだことはなかった。また、以前本欄で紹介した『作家の値うち』(小川版)でも、警察小説の高評価に対して、佐々木の歴史小説に対する評価は今一つだった。

本作は、歴史小説にSFの要素を絡ませたもの。日中戦争、太平洋戦争で、日本は中国、米国と戦い、敗れ、国土は焦土と化した。本作の主人公・藤堂直樹は、陸軍中野学校出身の元工作員。彼に対し、東京帝国大学の守屋と和久田の両教授は、4年前(話は1949年の設定)に日本の敗戦によって幕を閉じた戦争を、過去にさかのぼって未然に回避してほしい、という信じがたい提案をする。九州、筑紫山地にある「百年戻し」の伝承が残る洞穴が、過去と現在を行き来できる穴だという。これを使って満州事変勃発前に戻って、関東軍という名の帝国陸軍の謀略を阻止し、太平洋戦争に至る一連の流れを食い止め、歴史を変えろ、というのだ。藤堂は、元同僚の与志、偶然知り合った千秋の3人で、「百年戻し」の洞穴に入る。

藤堂たちが中国の抗日勢力と協力して(ということは、抗日勢力に「百年戻し」による時間遡行の件を話すのだが、彼らは、信じられないまま、協力するのだ。しかしその辺の筆致は、不自然さを感じない)、具体的に行動を起こす後半は、スリルとサスペンスに満ちている。映画化にも耐えられるんじゃないか。

しかし、こうも思う。我が国は戦後、自由・民主主義・法の支配に則った平和国家として歩みを進めてきた。これを可能ならしめたのは、敗戦によって、小津安二郎が言う所の「つまらん奴等が威張っている」時代と決別できたからだ(それには多大の犠牲が伴ったわけだが)。もし藤堂たちの計画が「完全に」成功してしまうと、威張っているつまらん奴等も生き延びてしまうのではないか。果たして、そのような世界を我々は望んでいるのか。そんな世界は著者も望んでいないのだろう。本作を最後まで読めば、それはわかる。

最近、小説はあまり読んでいなかったが、こう言う作品を読むのは楽しいね。良い時間を過ごせた。

 

 

『国際ロマンス詐欺被害者実態調査』(新川てるえ 著  太郎次郎社エディタス 刊)読了

副題は「なぜだまされる⁈ 国際ロマンス詐欺のマインドコントロール」。著者の新川は「ストップ! 国際ロマンス詐欺」というサイトの主宰者だ。実は当初、本書を読むつもりはなかった。「国際ロマンス詐欺」についてのルポが出版されてので、そっちを探していた。しかし見つからず、代わりに(と言っては何だが)図書館で見つけたのが本書だ。

 

本書は3章からなる。

Chapter1 「500人の被害者アンケートから見る国際ロマンス詐欺の実体」

Chapter2 「国際ロマンス詐欺のマインドコントロールとは?」

Chapter3 「被害にあわないために注意してほしいこと」

以下、C1を中心に見て行くが、その前に、本書で調査対象になっている「国際ロマンス詐欺」の定義は次のようなものだ。

SNSや出会い系・婚活系アプリなどを介して、他人(主に白人)に成りすました外国人がサイトやアプリのユーザに近づき、恋愛関係・信頼関係を構築したうえで国際送金を通じ、金をだまし取る」というもの。

 

調査回答者の属性

女性が圧倒的。男性もいるにはいるが、女性の1/10以下。年齢層は男女とも35~60歳位が多い。驚いたのは、既婚者が4割以上いたこと。

 

回答者の被害状況

本調査は被害者を金銭被害のあり・なしによって分けている。男女ともに金銭被害なし、という回答者の方が多いが、そうであっても、個人情報を提供してしまったり、金銭では計れない被害を受けている人も多いようだ。

被害金額は、一部の大金送金者がいるため、平均値が400万円を超えているが、送金被害者の半数近くは100万円以下の被害で済んでいる(とはいっても大金だ)。

詐欺師との交際期間は、1か月以内~2年と幅広いが、交際期間が半年を超えると、確実に金銭被害を受けている。

詐欺師が自称する職業は、軍人・軍医が多い(男性狙いの場合は、看護師・女性兵士など)。つまり、詐欺師はシリアやアフガンなどの戦地にいる設定が多い。身の危険は日本の比ではない戦地で交際相手を探す余裕などないだろ、と外野にいる僕などは思ってしまうが、実際にこういう状況になると、そういう思考には中々至らないようだ。

詐欺に気付いた理由は、金銭要求されたから、とか第三者の忠告を受けて、というのが多い。金の要求に対して疑問を持ったか否か、というのが天国と地獄の分かれ目か。そして、第三者の話を聴く、という行為は自分を冷静に見つめなおす機会でもあったのだろう。こういう人がいるかいないかによっても、結果は変わってくるようだ。

C2では、様々な被害の実例を5つ紹介、C3ではアンケートの自由記述欄に書かれた、被害にあわないために知ってほしいことや注意してほしいこと、更に著者のアドバイスなどが書かれている。

驚いたのは、詐欺と気付いていながら騙されたふりをして付き合っている、という意見(と言うか記述)があったこと。著者も「何とか反省してもらおうと、繋がって働きかけるのは危険」と書いている。詐欺とわかった理由を詐欺師に説明している人もいたが、これも著者は「詐欺師のスキルアップにつながるので、絶対にするな」と書く。そういえば、C2で、ガーナに詐欺師の学校を作って手口を教えるから、メールのバックアップを送ってほしい、と頼まれた被害者がいた。

 

日本の女性は慎重な人が多い、と僕は思っているのだが、相手が白人となると、これほど無防備になってしまうものなのか。読んでいて信じられなかったね。ただ、一つ思ったのは、C2の事例のほとんどが、離婚、子供なし(あるいは別居)の、いわゆるシングルマザーである点。シルバー民主主義のはびこる、30年間停滞の続くこの国にいる状況から救い出してくれる人が現れた、ということで、他のことが見えなくなってしまったのか、と思うと、同じ日本人として、やり切れない思いだ。

 

 

最近読んだ本。

『こわされた夫婦』(稲田豊史 著 清談社 刊)

「ルポ ぼくたちの離婚」という副題からわかるよう、様々な形の離婚について、著者が聴取り、まとめたもの。多くは、離婚した元夫が元妻について語ったものだが、2例だけ、元妻が元夫について語ったものが含まれている。実は貸出期限の到来で図書館に返却してしまい、いま手許にない。よく、離婚原因に「性格の不一致」が挙げられるが、それを個別具体的に書くと、本書の事例のようになるのだろう。まぁ、淡々と描かれているが、どれも結構な修羅場である。地獄と言って良いものもある(著者もそう表現している)。

細かくは書かないので、興味のある方はどうぞ。僕は本書を読み終わった後、昔読んだ丸山健二のエッセイを思い出した。そこには、「自分には絶対に病気をしない妻がいた」というようなことが書かれていた。作品名は忘れてしまった。『メッセージ/告白的青春論』だったかもしれないが。僕は、ここで丸山が言う「絶対に病気をしない」を「心と体が共に健康」と解釈したが、稲田の著したこの本に出てくるのは、これとは正反対に近い人物だ。これを「時代の流れ」として論じるのは、多分、正しくない。本書に紹介されているような夫婦の離婚は昔もあった。だが、それを取りまとめて紹介する、本書のような作品がなかっただけだろう。

その意味では貴重な作品。

 

『動くはずのない死体 森川智喜短編集』(光文社 刊)

『短編集』とあるが、僕が読んだのは表題作だけ。殺人という重いテーマを扱っているはずなのだが、筆致はいたって軽妙。そのアンバランスが面白い。こういう特徴のある作家には固定ファン的な層ができるものなのだろう。しかし、僕はその中には入らないな。僕が今まで読んできた「殺人」が絡む作品~金田一耕助にせよ、金田一一にせよ~には、それなりの「重さ」があった。だが本作には、そういったものがほとんど感じられない。それがこの作家の売りであり、存在意義なのだろうが、どうも僕は本作を「魅力的な」というくくりでは捉えることができなかった。

『SHO-TIME 大谷翔平 メジャー120年の歴史を変えた男』(ジェフ・フレッチャー著 タカ大丸訳 徳間書店刊)読了

大谷の野球少年時代から現在(と言っても2021年末までだが)までを追った内幕もの。意外と読み手を選ぶ作品だと思う。大谷のホームランだけを気にする一過性のファンには、全体で360ページを超える本作は、読み進めるのが苦痛になるかも知れない。しかし、この類まれな才能を持ったアスリートを継続的に追っていくのであれば、基礎知識として備えておくべきことが、本編全体に散りばめられている。ただし、筆者はエンゼルス番記者なので内容的には大谷渡米後の記事が中心だ。

渡米前の大谷については、花巻東時代からその一挙手一投足がマスコミ報道されており、日本のファンなら記憶していることも多い。それを基盤に本書を読めば、野球選手・大谷の成長を全体的にとらえることができるだろう。

 

僕も多くの大谷ファンと同様、高校時代から注目してきた。ちなみに、本欄で最初に大谷をとり上げたのはいつ頃か調べてみたら、2013年5月23日、一軍公式戦初登板の日だ。だが、どの局も中継しておらず、がっかりした、と書いている。大谷の現在の活躍は、何と言っても(いきなりMLBではなく)、ファイターズ時代に栗山監督のもとでじっくりと育てられたことが活きていると思う。その記念すべき最初の登板を見ることができなかったのだ。現在の状況とは雲泥の差だな。

 

本書では、ファイターズ入団前後の状況と、その選択が、今となっては最良のものであった、ということが書かれている(1,2章)。そして3章では、今では伝説となった、メジャー各球団による大谷争奪戦が詳述されている。僕はこの時期、社労士の国家試験受験講師の仕事をしていて、労働一般常識の講義(だったと記憶している)で、大企業(MLBの各チーム)の首脳陣を集めて、オレに最も良い条件を出してくれたところに行く何てことが言えるのは、世界中で大谷だけ、と言ったことを覚えている。つまり、メジャー行きを転職活動と捉えるなら、前代未聞の転職活動だったわけだ。

二刀流については、ベーブ・ルースとよく比較(比較されること自体が凄いことなのだが、あまりにもよく比較対象になるので、我々は慣れっこになってしまっている)されるが、筆者はもっと範囲を広げ、ニグロリーグの選手や、MLBでもリック・アンキール、マイケル・ロレンゼンやジャレド・ウォルシュなどと比較して、(ウォルシュの言葉を借りて)大谷をユニコーンと結論付けている(13章)。

 

ただ、僕としてはちょっと残念なことがある。それは大谷渡米後の5年間で、指揮官が既に4人代わっていることだ(ソーシア→オースマス→マッドン→ネビン)。これはつまり、エンゼルスの抱える諸問題の多くが、ここ数年でほとんど解決されていないことを意味する。マッドンには期待したが、成績不振により解任されてしまった。今までのところ、僕はこの解任は、とんでもない愚行だと思っている(22年の出来事なので、本書には直接載ってはいないが)。

それはともかく、今後の大谷、どんな活躍をしてくれるだろうか。楽しみだ。もちろん、今後の年俸にもびっくりするだろうが。

 

 

『ほんとうの定年後』(坂本貴志 著 講談社現代新書)読了

副題は「『小さな仕事』が日本社会を救う」。2月に週刊新潮で本書の特集記事が載った。それを読んで図書館に予約を入れたが、先日やっと僕の番がまわって来た。

 

基本的に良い本である。本書は以下の構成になっている

第1部 定年後の仕事「15の事実」(本欄はここを中心に書く)

第2部 「小さな仕事」に確かな意義を感じるまで

第3部 「小さな仕事」の積み上げ経済

 

昨年8月に刊行され、僕が手にしたのは11月に出たもので、この時すでに9刷。タイムリーな刊行だったことがわかる。特に、本書の内容から見て、僕のように(年齢的に)定年退職後で老齢年金受給世代に該当する者より、現在40~50歳代で、会社員人生の後半戦を戦っているような人が読むのに適しているように思う。この年代の人は、バブル崩壊後に社会に出て以降、良い思いをしてこなかった、と言う気持ちも強い。「定年後の人生は捨てたもんじゃない」と言う本書は、この年代の人々にとりわけ響くものがあるのではないか。同時に、僕みたいに既に本書の「適齢期」を過ぎてしまったような者でも、気持ちの持ち方的な面で参考になる点が多々ある。

難を言えば、物わかりが良すぎる、と言うか、若年寄的と言うか、、、。著者は厚労省内閣府を経験し、「経済財政白書」の執筆陣の一人だったという。そういうことから、体制批判的な記述は見られない。その辺りにやんちゃさが足りない、と言う感じを受ける人もいるかも知れない。その中では、最低賃金の引き上げ幅に言及した箇所(P256)には、著者の本気度を感じた。

 

ところで、本書の肝は、定年後に就く仕事、まさにそこにある。著者は、定年退職後に、月10万円程度の「小さな仕事」に就くことにより、公的年金(例:60代後半で、月約19.9万円)と併せ、夫婦で月10万円程度の収入があれば、充分生活できる、と説く。こう書くと、当然、住宅ローンはどうするんだとか、ずっと健康ではいられないのではないか、とかの疑問がわく。本書は、このような疑問にも、統計を使って納得性のある説明をしているので、その辺は読んでいて安心する(「事実1」 P12~)。

また、「小さな仕事」に70歳程度まで就き、その後に引退して20年程度の人生を全うする、と考えた場合、平均的な年金給付に加えて、約1000万円ほどの貯金があれば充分、と著者は言う(「事実5 P44~」)。更に、「小さな仕事」に就くことで老齢年金の繰下げ受給、という選択を現実的に考えることができるようになる。

ただし、幾つか注意点もある。

気になった点は、老後は賃貸よりも持ち家の方が良い、と言う点。同感だ。賃貸だと高齢になっても、居住のための費用がコストとしてかかって来るが、これは無視できない。それに、住むところを探すことになった場合、すんなりと借りられるか、と言う問題もある(「事実2 P19~」)。

次に、現役時代に就いていた仕事と、これから行う「小さな仕事」との間のギャップを埋める心構えがあるか、と言う点。これについては、コロナ禍で、いわゆるエッセンシャルワーカーの重要性を我々は認識したはずだが、のど元過ぎれば熱さ忘れる、のことわざ通り、現在、彼らの労働を重視し、待遇の改善を声高に叫ぶ声はあまり聞かない。著者は静かな筆致ながら、このことについて非常に怒っている(「事実10 P91~」)。「高い収入や栄誉」を求めるキャリアから現場仕事への転換について、上手く行かないシニアも一定数存在するが、多くのシニアは、自分の中でそのような転換に折り合いをつけ、「誰かの役に立つこと」に価値を見出している(「事実13 P123~」)。

 

第2部は、7人の定年後の就業者についてのケーススタディ、第3部は、1,2部を踏まえての著者の論考となっているが、この中に出てくる「サービス品質の日米比較」の調査結果には驚く(P246~)。

「おわりに」では、全てを書き終えて達観の境地に達した著者の姿が目に見えるようだ。

僕は本書を図書館で借りたが、機会があれば購入していつでも読み返せるようにしたい。そんな本である。