面白かった。
何よりこの歳になって、過去作品の読み返しではなく、新たな作家の新たな作品を楽しめる、ということが嬉しい。
本作については過去にも本欄で少し触れたことがあった。その時にも書いたが、CEOと一般従業員の経済格差が1000倍以上のGAFAM的巨大企業に、その是正をテロ行為をもって促す謎の団体。この団体に、父親を殺された(と疑われる)元警察官の主人公・石井大良が挑む。
物語の前半、大良が謎の団体に近づき、そこに入るまでの描写は、スリリングだ。カギとなる人物・小川との出会いの場面は、若干のコミカルさも加えて描かれる(3巻P19~40)。この前後(2巻P149~)では、物語の本筋ではないが、労働災害や、今問題となっているアルゴ労働のトピックも使われており、現代的で興味深い。ここから、3巻の後半(P150)辺りにかけてが、本作で僕が最も好きな部分だ。
これに対し、後半はややストーリィ展開に窮屈感が残る。実は3巻の発刊(22年4月)から4巻の発刊(23年2月)まで、10カ月の間がある。作者に個人的な大きな出来事があり(詳細は知らない)、連載を休止せざるを得なくなったようだ。この間、連載の再開を待ち望んでいたファンも多かったと思う。僕もその一人だったが、ひょっとしたらこの休載が、微妙に、作品の後半に影響を与えているのかも知れない。
そしてもう一つ、3巻以降、謎の団体(ダーウィンクラブ)の全貌が徐々に明らかになっていくが、これがまた、巷で問題となっている某新興宗教団体を想起させるところがある。そういえば、安倍ちゃんが狙撃されたのは、22年7月8日。本作の休載は同年6月頃~11月頃。連載再開後、団体内部の描写が多くなってくるが、某新興宗教団体の問題が顕在化するのも同時期だ。このことが作品に何らかの影響を与えている、と考えるのは勘ぐりすぎだろうか。
最後は、この団体(より正確には、その一派であるアングリービーグル)が、まだ終わっていないことが示唆される。この余韻を残したエンディングも良い。
前作『インハンド』はテレビドラマ化されたが、本作も映像化に耐えられる力作だと思う。